近年の海外での和食ブームとともに、日本酒の人気も高まっている。訪日外国人の実に8割以上が日本滞在中に日本酒を飲み、さらに6割は酒蔵を訪れたという。世界に広がりつつある日本酒だが、まだあまり知らないという人も多いかもしれない。今回は、日本酒の特徴からおいしく味わうための酒器の選び方まで、その魅力をお伝えする。
日本酒の特徴
日本酒とは、米と水、米麹から作られた日本独自の酒のこと。その起源は、紀元前4000年以上前ともいわれており、長い歴史を持つ。味の特徴は、米に由来する芳醇なうま味と香り。原料がシンプルなだけに、どんな素材を使うかによって味わいが大きく変わってくる。日本全国、北から南まで約1400の酒蔵があり、それぞれの気候や風土を生かした酒造りをしている。
日本酒は、同じ酒蔵、同じ銘柄であっても、製造方法によってさまざまな種類がある。また、「温めて」「冷やして」「常温」といろいろな飲み方ができるのも日本酒の魅力的なポイントだ。温度を変えることによって、まったく違う表情を楽しめる。その日の気分や一緒に食べる料理によって、温度帯を変えてみるのもいいだろう。
日本酒の製造工程
日本酒は、ビールやワインに比べて多くの工程を経てつくられる。ワインの場合は、原料のブドウそのものに糖分が含まれているため、酵母が加わるだけでアルコール発酵させることができる。これを「単発酵」という。
しかし、日本酒の主原料である米の主成分はでんぷんで、糖分が含まれていないため、酵母を加えただけでは発酵しない。そこで麹菌を使い、麹の酵素の力を借りて1度でんぷんを糖化させてから、酵母を加えてアルコール発酵させる。
こうした同じタンク内で糖化と発酵の2つの科学反応を同時に行う技術を「並行複発酵」と呼ぶ。世界でも類を見ない酒造りの方法で、職人の経験と技が試される。
タイプ別、酒器の選び方
同じ日本酒でも、選ぶ酒器によって味わいが大きく変わる。さまざまな種類がある日本酒だが、味と香りによって大きく4種類に分けられる。ここでは、どんなタイプの酒に、どんな形や素材の酒器が適しているのかについてみていこう。
香りが高い「薫酒(くんしゅ)」
大吟醸酒や吟醸酒系の多くがこのタイプ。フルーティーで華やかな香りと軽い口当たりが特徴で、少し冷やして飲むのがおすすめだ。香りを楽しめるよう、口が開いたガラスの酒器を選ぶといいだろう。
コクがある「醇酒(じゅんしゅ)」
主に純米酒系がこのタイプ。米本来のうま味とコクが味わえる。日本酒らしい味わいといえるだろう。いろいろな温度帯で楽しめるが、燗につけるとさらに風味や味わいが増す。丸みがあり、口縁が厚く仕上げられた陶器製の酒器がおすすめ。
淡麗辛口の「爽酒(そうしゅ)」
本醸造や生酒、普通酒に多いタイプ。爽快でスッキリした飲み口で、比較的飲みやすい。酒単体で飲むよりも料理と一緒に楽しみたい日本酒だ。よく冷やして小さめの器で飲むと、爽酒ならではのフレッシュな味わいを堪能できる。
熟成タイプの「熟酒(じゅくしゅ)」
長期熟成された日本酒は、複雑で重厚な香りと味わいが特徴。好みの温度で少しずつ楽しもう。重厚な香りが逃げないよう、丸く膨らみ、飲み口がすぼまったデザインの酒器がおすすめ。
ただし、この4タイプの分類は、あくまでも一つの目安に過ぎない。日本酒は、どんなスタイルでも自由に楽しめる懐の深さがある。これはと思う器をインスピレーションで選んでみるのもいいだろう。
日本酒は、米と水、米麹というシンプルな原料ながら、華やかな香りのものから重厚な味わいのものまで、豊富なバリエーションが存在している。温度帯や器によって味わいに違いが出ることも、日本酒の面白さの一つだ。ぜひいろいろな飲み方を楽しんでいただきたい。